OTelの観測性実踐と教訓:マイクロサービス環境における監視アーキテクチャの進化

はじめに

マイクロサービスアーキテクチャとクラウドネイティブ環境において、システムの観測性(Observability)は信頼性とスケーラビリティを確保するための不可欠な要素です。OpenTelemetry(OTel)は、指標(Metrics)、トレース(Traces)、ログ(Logs)を統合的に収集・分析するためのオープンソースプロジェクトであり、CNCF(Cloud Native Computing Foundation)の重要な技術スタックの一つです。本記事では、OTelを活用した監視アーキテクチャの設計と実踐を通じて、マイクロサービス環境における観測性の課題と解決策を解説します。

システムアーキテクチャの進化

初期段階

マイクロサービスはGateway経由でPrometheusに指標を出力し、Jagerを用いてトレースを実施していました。この段階では、ログの集中管理が実施されておらず、分散されたデータの統合が困難でした。

進化段階

マイクロサービスはDaemonSetでデプロイされ、OTel Agentを介してVictoria Metrics、Grafana Loki、Tempoにデータが送信されるようになりました。このアーキテクチャは多クラスタ環境にも対応し、スケーラビリティと柔軟性を向上させました。

核心的な課題と解決策

時間系列データの爆発

問題:Victoria Metricsの時間系列データ數が200萬から4000萬に急増。 原因:KubernetesのAttribute ProcessorがPod IPなどのメタデータを自動追加し、Istio SidecarによるIP衝突(127.0.0.1の共有)が発生。OTel Agentがランダムにメタデータを指標に割り當てていた。 解決策:サービスグリッド(Istio)を廃止し、アプリケーション層でのMTLSを採用。カスタムのAssociationリストを設定し、IP衝突を迴避。

ログ処理のボトルネック

問題:ログシステムの過負荷によりGatewayがタイムアウト。 対策:CFA(Cluster Federation Architecture)を導入し、ログラベルの制限、アクセスログの削減、ロギングローテーションの最適化を実施。 教訓:初期段階でデータ量の予測が不足し、設計に不備があった。

チャオズエンジニアリングによるテスト

方法:リアルなトラフィック負荷を模擬し、CPU/Memory制限を調整、Warpを用いたパフォーマンステストを実施。 成果:潛在的なボトルネックを特定し、生産環境での障害を予防。結果としてシステムの安定性が向上。

受信器の選択ミス

誤った実踐:cubet stats receiverやKUB stats receiverなどのデフォルト受信器を採用。 修正:デフォルト受信器を廃止し、node exporterなどの伝統的なscrape方式に戻す。 教訓:OTelには統一された標準がなく、業務ニーズに応じたツール選定が重要。

ゲートウェイの安定性問題

問題:ゲートウェイPodが頻繁にCrashLoopBackOff。 解決策:Collectorの自動スケーリング(HPA)を有効化し、最小/最大Replica數を設定。単Pod構成を修正。 効果:データフローの安定性を確保し、データロスを防止。

技術的要點

  • OpenTelemetry:指標、トレース、ログの統合を可能にするが、具體的なシナリオに応じて適切に利用する必要がある。
  • Kubernetesメタデータ:Attribute Processorが自動的に追加するPod IPなどの情報がデータ膨張を引き起こす可能性がある。
  • サービスグリッド統合:Istio Sidecarは予期せぬトラフィック行動を引き起こす可能性がある。
  • 自動スケーリング:CollectorのHPA設定は高トラフィック環境での処理に不可欠。
  • チャオズエンジニアリング:故障を意図的に導入し、システムの容錯能力を向上させる。

システム設計の原則

  • 段階的進化:開発環境から生産環境への移行には継続的な最適化が必要。
  • データ制御:監視データ量を予測し、システムの過負荷を防ぐ。
  • ツール選定:技術トレンドに追従するのではなく、業務ニーズに応じた監視ソリューションを選びたい。
  • 容錯設計:チャオズエンジニアリングを用いてシステムの安定性を検証し、生産環境の信頼性を確保。

問題と解決策のまとめ

受信器選択とデータフローの調整

初期のKubeStats受信器使用時に問題が発生し、既存の監視方法(API Server直接ScrapeやNode Exporter)との整合性が欠如していた。Gatewayのクラッシュによりデータ中斷が発生し、単Pod構成が高負荷に対応できなかった。解決策としてCollectorの自動スケーリングを有効化し、最小/最大Replica數を設定。結果としてGatewayが3〜4Podに拡張され、データフローの安定性が確保された。

データの一貫性と重複問題

初期のGateway障害によりデータロスが発生し、その後Agent/Scrapersを用いたデータ収集に切り替えた。データ重複を迴避するにはデータフローのアーキテクチャを調整し、監視エンドポイントを安定化させることが重要。

部署経験

部署モデルの進化

基礎的な部署から多クラスタアーキテクチャ(Multicluster)とCFA(Cluster Federation Architecture)の統合へと移行。カスタマイズ可能な設定により、Collectorのパラメータやデータ処理フローを柔軟に調整可能。

自動スケーリングと負荷分散

CollectorのHPA設定:CPU使用率閾値を設定し、Pod數を動的に調整。負荷分散では、HTTP接続はKubernetesが自動的にサービス分散、gRPC接続はアプリケーション層やOTel Collectorを用いてカスタム負荷分散を実裝。

生産環境での部署考慮

OTel 1.0以前のバージョンを生産環境に直接導入するとAPI変更のリスクがあるため、避けるべき。現在のドキュメントとコミュニティリソースは大幅に改善され、生産環境の導入ガイドが提供されている。

技術的詳細

データフロー構造

受信器(Receivers)→ プロセッサ(Processors)→ エクスポーター(Exporters)の標準的なフロー。VictoriaMetricsやPrometheusなどの多様なエクスポーターを選択可能。Wild Instrumented Collectorを用いて自身の運行狀態を監視し、テストやデバッグを支援。

監視とダッシュボード

Monitoring Artistなどのツールを統合し、Collectorの運行狀態を可視化。Pipeline構造でデータフローを構造化し、監視データの安定した伝送を確保。

スケーラビリティと信頼性

誤ったデプロイによるスケーラビリティ問題を避けるために、ドキュメントとコミュニティリソースに依存。現行のソリューションは高スケール監視を実現し、システム中斷やエンジニアの手動介入を減らす。

キーレッスン

  • 生産環境への過早な導入を避ける:OTel 1.0以前のバージョンはAPI変更のリスクがあるため、慎重に検討する。
  • 柔軟なツール選定:組織のニーズに応じて受信器、エクスポーター、監視ツールを選択し、技術トレンドに追従するのではなく、実際の業務に即したソリューションを構築。
  • コミュニティとドキュメントの支援:明確に説明されていない問題は、SlackやGitHub Issues、技術ブログなどから支援を受けることができる。