Kubeflow エコシステム:クラウドネイティブ AI/ML と LLMOps の将来の方向性

はじめに

Kubeflow はクラウドネイティブ機械学習(Cloud Native ML)の中核フレームワークとして、企業や研究機関における AI/ML ワークフローの展開において重要なツールとなっています。大規模言語モデル(LLM)の急速な進化に伴い、LLMOps(大規模言語モデルの運用)の技術的ニーズも高まっています。本稿では、Kubeflow エコシステムの最新の進展について、主要コンポーネントや技術的特徴、将来の方向性を含めて解説し、クラウドネイティブ環境におけるその価値を考察します。

技術と機能の分析

Kubeflow エコシステムの概要

Kubeflow の目的は、シンプルで移植性があり、スケーラブルな AI/ML プラットフォームを構築することにあります。これはローカル、クラウド、ハイブリッドの Kubernetes 環境をサポートし、以下の特徴を備えています:

  • 統合可能なプラットフォーム:データ処理、モデル開発、トレーニング、最適化、推論までのライフサイクル全体をカバー
  • 主要コンポーネント:Spark Operator、Notebooks、Trainer、Kubeflow KT(ハイパーパラメータ最適化とアーキテクチャ検索)、Model Registry、KServe、Kubeflow Pipelines など

Notebooks と Kubeflow Workspaces

Notebooks はインタラクティブな開発環境を提供し、RStudio、VS Code、Jupyter Lab をサポートします。最近の更新内容は以下の通りです:

  • Kubeflow Workspaces の追加により、UI のスナップショットを提供
  • データサイエンティストとプラットフォームエンジニア双方にとって柔軟な使用を可能に
  • コミュニティが活発に更新中。会議への参加を推奨

Spark Operator

Spark Operator は Kubernetes 上で Spark アプリケーションを実行することを目的としており、大規模データ処理を支援します。バージョン 2.1.0 の更新内容:

  • Spark 3.x の統合、資源スケジューリング(Gang Scheduling)の最適化
  • Jupyter Notebook とのインタラクティブセッション統合
  • 実績:AWS で 36,000 ノード上で 60,000 の Spark ジョブを実行し、高スケーラビリティを証明

Kubeflow KT(ハイパーパラメータ最適化)

Kubeflow KT は LLM のファインチューニングにおけるハイパーパラメータ最適化を簡素化します。更新内容:

  • KATIP:単一 API による実験作成の簡略化とカスタム最適化戦略のサポート
  • RAG 統合:RAG(検索強化生成)と連携し生成モデルを最適化
  • コミュニティ貢献:GSOC 学生による開発で上流プロジェクトに統合済み

Kubeflow Trainer

Kubeflow Trainer は PyTorch、TensorFlow、DeepSpeed、MLX、Hugging Face など複数のフレームワークでのトレーニングとファインチューニングをサポートします:

  • Train Job:トレーニングジョブと必要リソースの定義
  • Training Runtime:DevOps エンジニアが構成し、インフラとトレーニングコードを分離
  • 各フレームワーク用の Job CRD を Runtime に統合し、追加・保守を簡素化

分散トレーニングとキャッシュ最適化

Apache Arrow と Iceberg を統合した分散キャッシュにより、PyTorch でのゼロコピーによるデータ転送を実現。性能改善計画は Kubeflow コミュニティに提出され、実測デモが展示されました。

ML ユーザー体験の簡素化(Unifi SDK)

Unifi SDK は統一された Python インターフェースを提供し、データサイエンティストが Kubernetes を意識せずトレーニングや最適化を実行可能にします:

  • Llama コミュニティと統合し、LLM のファインチューニング・推論を簡素化
  • Torch Tune との協力により PyTorch の操作性向上
  • Spark(前処理)、Kubeflow Trainer(トレーニング)、KServe(推論)を統合したエンドツーエンド処理

Model Registry

Model Registry はモデルのバージョンとメタデータを管理し、開発と本番環境を橋渡しします:

  • 新 UI によりモデルのアップロードと管理を簡易化
  • カスタムストレージ初期化に対応、KServe などとの統合
  • 自動スケーリングとキャッシュ(PV/PVC)最適化

KServe(モデルサービング)

KServe はクラウドネイティブなモデルサービスプラットフォームで、予測と生成 AI をサポートします:

  • Envoy AI Gateway と統合、多数の RM プロバイダーとトラフィック制御に対応
  • 大規模モデルの自動スケーリング最適化、カスタムメトリクスのサポート
  • モデルキャッシュとマルチモデル推論(VRM Server)の強化
  • Gateway API による一元化された展開に対応

Kubeflow Pipelines

Kubeflow Pipelines は各コンポーネントを統合し、DAG またはグラフ形式でワークフローを編成します:

  • Hugging Face の Gemma 3B モデルを用いたファインチューニング事例
  • Jupyter Notebook でトレーニング設定、KFP SDK による実験・ハイパーパラメータ管理
  • マルチテナント対応でユーザーごとのアクセス制御が可能

今後の方向性

Kubeflow エコシステムの今後の展望:

  • コミュニティ連携:Llama、Torch Tune との統合を推進し、LLMOps 機能を強化
  • 技術進化:リソーススケジューリングの最適化、フレームワークサポートの拡張、自動化・可観測性の向上
  • UX 改善:開発フローの簡素化、Kubernetes の学習コスト削減、E2E 効率の向上

モデルとトレーニングフロー

Hugging Face の Gemma 3 1B モデルを用いた推論タスクのファインチューニングを実施。GRPO(勾配に基づく方策最適化)と Unsloth ライブラリを活用し、正解出力に正の報酬、誤答に負の報酬を与える訓練を実施。Kubeflow Pipelines によって訓練と推論の流れを統合し、訓練では指定リソース(4 CPU、64GB メモリ、1 GPU)を使用、推論ではファインチューニングモデルをデプロイし、元のモデルと比較します。

Kubeflow のシステム構成

マルチテナントシステムにより、ユーザーは構成プロファイルを切り替え可能。Jupyter Notebook や RStudio などのランタイム環境を提供。Katib によるハイパーパラメータ最適化をサポートし、目標値と最適化アルゴリズムを指定可能。DAG によって訓練・推論ワークフローを構成し、ストレージ準備後に訓練、ファインチューニング完了後に推論が実行されます。UI 上から進行状況とログを管理でき、Kubernetes の直接操作は不要です。

訓練と推論の詳細

Kubeflow Trainer による分散トレーニングを実施。報酬関数とハイパーパラメータ調整(Kip 対応)を定義。訓練完了後にジョブを自動削除し、ファインチューニングモデルをデプロイ。推論サービスのエンドポイントは UI で確認可能で、テストリクエストの送信も可能です。GRPO によって微調整され、報酬値の向上が訓練効果を示します。

Kubeflow 1.0 の新機能と改善点

UI 改善とユーザー体験の向上。Training Operator や分散トレーシングのサポートを追加し、Spark Operator を Kubeflow の正式構成要素として統合。セキュリティ強化:CVE 対策とベストプラクティスの実装。リソース管理機能により pipeline 内のリソース制限、ループ並列性や実行フローの制御が可能に。

コミュニティと今後の展望

生成 AI の推論支援とトレーナー最適化、モデルレジストリとストレージの統合を推進。新たなワーキンググループによってデータとユーザー体験を横断する協業を促進。Slack コミュニティへの参加(QR コード経由)や月例会議・コミュニティコールへの参加を推奨。今後の計画には Helmchart の導入によるデプロイ簡素化、Feature Store の統合、ユーザー調査に基づく改善などが含まれます。

技術統合とエコシステム

Kubeflow Pipelines(KFP)による ML ワークフローの実装、Kubernetes ネイティブのリソース管理とスケーリングのサポート、Hugging Face モデル(gated model)の統合により、モデルの開発・訓練・展開・監視までのエンドツーエンドソリューションを提供。

まとめ

Kubeflow エコシステムは、Kubernetes、LLMOps、クラウドネイティブ ML を統合し、スケーラブルで高効率な AI/ML ソリューションを提供します。その強みは多様なフレームワークへの対応、開発の簡素化、モデル管理とサービス化の強化にあります。今後はリソーススケジューリングの最適化、自動化機能の強化、Llama や Torch Tune とのさらなる統合によって、企業や研究機関におけるニーズの高まりに応えていく必要があります。