はじめに
現代のクラウドネイティブ環境では、多クラスターモデルの採用が増加しています。複數のクラスターを管理する際、ネットワーク設計やサービスメッシュの導入は重要な課題です。Istioはサービスメッシュの代表的な実裝であり、多クラスター環境での通信管理、セキュリティ、観測性を強化するための機能を提供します。本記事では、多クラスターモデルのネットワーク設計、Istioの制御平面構成、サービスメッシュの信頼域管理、観測性プローブ技術、そしてIstio 1.2以降のAmbientモデルの特徴を解説します。
ネットワークモデル
個別ネットワークモデル
- 単一ネットワークモデル:サービス間の直接通信が可能ですが、IPアドレスの重複を許容しない。小型の単一クラスター環境に適している。
- 複數ネットワークモデル:IPアドレスの重複や仮想ネットワークセグメントをサポート。Istio East-West Gatewayを通じた通信により、ネットワークの分離性と故障耐性が向上。大規模なクラスター間通信に適している。
制御平面モデル
- 可用性層級:區域層級では単一または複數の制御平面が採用され、クラスター層級では各クラスターに獨立した制御平面が設置される。
- 多主モデルの利點:制御平面の障害影響範囲を制限し、異なるビジネスセグメントの獨立したデプロイとロールアウトを可能にする。
- 課題:遠隔キーマネジメントでは、キーローテーションや有効期限管理が必須。Istio制御平面の信頼性が低下するリスクがある。また、クラスター規模が拡大するとKubernetes APIサーバーの狀態管理が困難になるため、Hub-Spokeアーキテクチャの設計が求められる。
サービスメッシュと信頼域管理
個別メッシュモデル
- 単一メッシュモデル:サービス間通信が同一メッシュ內で行われる。サービス名や名前空間の重複を許さない。単一クラスターまたは同質化環境に適している。
- 複數メッシュモデル:サービス名や名前空間の重複を許容。メッシュ間通信には信頼バンドル(Trust Bundle)が必要。信頼域間の信頼関係を構築する必要がある。
信頼域と証明書管理
- 各メッシュは獨立したCA(ルート証明書/中間CA/ワークロード葉証明書)を設定可能。
- Spireの導入:Spire ServerとAgentを介してワークロードの検証を行い、信頼証明書の共有コストを発生させる。
- 外部PKI統合:Istioを既存のPKIルート信頼域に統合し、CManagerによる自動化された証明書ローテーションで管理負荷を軽減。
課題と解決策
設定の複雑性
- アプリケーション固有の要件(ヘッダー、リトライロジック、リライトルール)にはEnvoy Filterの追加設定が必要。
- 通信の隔離を実現するため、特定のビジネスセグメント間の通信を制限。
- オンプレミスとクラウドクラスター(AWS/GCP/Azure)の混合環境での管理。
ライフサイクル管理
- サービス発見リソース(ServiceEntry/VirtualService/DestinationRule)の自動デプロイ。
- クラスターのライフサイクル管理(新規クラスターの追加/削除)。
- 遠隔キーマネジメントと跨クラスターリソースの同期。
GitOpsツールの統合
- Flux/ArgoとHelm/カスタムテンプレートツールを活用し、構成ロジックを抽象化。
- バッチでのDNS名(ワイルドカードプレフィックス)と名前空間の隔離をサポート。
Admiralコミュニティプロジェクト
- 跨クラスターのリソース同期と自動デプロイを実現。
- 現有のCI/CDプロセスと統合し、手動設定の負擔を軽減。
観測性プローブ技術
東西方向流量監視
- プローブアーキテクチャ:クライアントとサーバーのアプリケーションにプローブを配置し、定期的なPingを送信。
- 監視指標:サービス間通信狀態(SLI)、サービス登録時間(Registration Duration)、IstioとKubernetes APIサーバーの狀態を確認。
- 跨クラスターモニタリング:クライアントが一意のRequest IDを目標クラスターに送信し、サーバーが応答を記録。Prometheus/Grafanaで跨クラスターモニタリングを実裝。
南北方向流量監視
- プローブ機能:一意のホスト名を生成し、DNSレコードの重複を検証。Aレコード作成後のDNS解析を確認。
- アプリケーションシナリオ:Istio GatewayまたはKubernetes Gateway APIをサポートし、外部DNSとIngressの可用性を確保。
- スケーラビリティの考慮:DNSサーバーの過負荷を迴避し、ランダム化とリトライロジックを導入。
Ambientモデル(Istio 1.2 GA)
サイドカーモデルとの比較
- Ambientモデルはサイドカーなしの通信を重視し、跨クラスターコミュニケーションとサービス登録監視をサポート。
- 低コストと高スケーラビリティを実現し、特定のサービスにL7トラフィックパスをデプロイ可能。
- 設定ではサービス発見リソース(ServiceEntry/VirtualService)の跨クラスターコンフィギュレーションに注意。
フローアーキテクチャの特徴
- L4(トランスポート層)とL7(アプリケーション層)のトラフィックを分離。
- ZトンネルでL4トラフィックを処理し、特定サービスにL7トラフィックパスをデプロイ。
- Istioサイドカーのリソース消費を削減し、高負荷時のCPU/メモリ上限を迴避。
マイグレーションと互換性
- Ambientモデルへの段階的マイグレーションをサポート。
- 新しいHub/Spokeクラスターの導入時にサイドカーとの互換性を確保。
- 現有アーキテクチャとの整合性を維持し、技術進化に適応。
結論
多クラスターモデルではネットワーク設計、制御平面構成、サービスメッシュの信頼域管理、観測性プローブ技術が不可欠です。Istioはこれらの課題を解決するための強力なツールであり、Ambientモデルの導入によりさらなるスケーラビリティと効率性が実現されます。実裝時にはGitOpsツールの統合やAdmiralプロジェクトの活用が推奨され、信頼性と運用効率の向上が期待されます。