はじめに
CERN(歐州核子研究機構)は、世界最大の粒子加速器である大型強子対撞機(LHC)を運営しており、粒子衝突によって生成される膨大なデータを処理・分析するため、高性能なGPUリソースが不可欠です。しかし、GPUはコストが高く、供給が限られているため、効率的なリソース管理が求められます。この課題を解決するため、DRA(Dynamic Resource Allocation)が注目されています。本記事では、DRAの技術的特徴、実裝方法、およびCERNにおける応用例を解説します。
技術の定義と基本概念
GPU共有技術の現狀
CERNでは、GPUリソースを共有するための以下の技術が採用されています。
- タイムスライシング:複數のタスクを時間的に切り替えて実行しますが、コンテキストスイッチングによるオーバーヘッドやメモリの不均等利用が課題です。
- MPS(Multi-Process Service):空間的に共有し、獨立したプロセスで実行しますが、手動での設定が煩雑です。
- MIG(Multi-Instance GPU):GPUを7つの獨立したインスタンスに分割し、メモリやキャッシュを隔離しますが、既存のタスクを削除する必要があり、柔軟性に欠けます。
これらの技術は、リソースの動的調整やノード間の柔軟な管理が困難なため、CERNでは新たな解決策としてDRAが提案されています。
DRAの概要
DRAは、GPUリソースを動的に割り當て・共有するためのフレームワークです。ユーザーが特定のデバイス、デバイスグループ、またはデバイスの一部(例:4GB計算 + 20GBメモリ)を要求できるようにし、自動的にリソースを配置・クリーンアップします。Kubernetes環境での実裝が進んでおり、CNCF(Cloud Native Computing Foundation)のエコシステムと統合されています。
主な特徴と機能
動的リソース割り當て
- 抽象化されたリソース定義:ノードラベルに依存せず、リソースをクラスタ全體で管理可能。
- 動的プロビジョニング:ユーザーの要望に応じてGPUを分割(例:MIG)し、タスク終了後に自動的にリソースを解放。
- 計算ドメイン:ノード間での高帯域幅通信を可能にし、多租戶環境でのセキュリティと隔離を確保。
サポートする技術
- GPU分割:タイムスライシング、MPS、MIGをサポートし、動的な調整が可能。
- クロスノード通信:NVIDIAのNVLinkやIMAXチャネルを活用し、ノード間でのメモリ共有を実現。
実裝例
- 単一GPUの共有:2つのコンテナが同一GPUを共有し、リソース要求をResource Claimテンプレートで指定。
- 動的GPU分割:ユーザーが特定のGPU分數を要求すると、システムが自動的にMIGを設定し、タスク終了後にリソースをクリーンアップ。
- クロスノード通信:NVIDIA GB200 NVL72システムで、Compute Domainを指定し、IMAXチャネルを介して高帯域幅通信を実現。
優勢と課題
優勢
- 柔軟性:複數のGPU分割方式をサポートし、動的なリソース調整が可能。
- 自動化:ノードラベルの手動設定を不要にし、管理負荷を軽減。
- 高効率:リソースの無駄を減らし、クラスタ全體での利用率を向上。
課題
- 初期設定の複雑さ:Kubernetes 1.33以降のバージョンが必要で、ドライバの導入が必須。
- ノードアーキテクチャの制約:NVLink通信には同一機架內のノードが必須で、クラウド環境では利用不可。
- バージョン依存:DRAはKubernetes 1.32でベータ版として提供され、1.34以降でGA予定。
結論
DRAは、CERNのような大規模なGPUリソース管理ニーズに適した革新的な技術です。動的なリソース割り當てとクロスノード通信のサポートにより、AIや物理シミュレーションなどの高負荷ワークロードの効率化が可能になります。今後の進化により、CNCFエコシステムとの統合が進み、さらなる柔軟性とスケーラビリティが期待されます。実裝時には、Kubernetesバージョンとドライバの互換性を確認し、ノードアーキテクチャに応じた設定を行うことが重要です。